とても高音域の男性が歌う主題歌

邦画における当時の最高記録を塗り替える興行収入193億円を記録し1997年の日本を震撼させた「もののけ姫」は、その主題歌においても革命的な存在でした。人間の娘でありながら山犬に育てられた少女サンの気高い生き様を愛した少年アシタカの心情を綴った歌詞にジブリ映画常連の久石譲が託した静謐なるメロディも素晴らしいのですが、何より衝撃的だったのはその歌声。歌手は米良美一。男性ながらも声は女性そのもの。しかしその澄み渡った歌声は物語に違和感なく溶け込み、劇場に詰めかけた観客の心を震わせました。劇中において披露されたのは中盤、負傷から目覚めたアシタカがサンの育ての親である犬神モロの君と相対した場面でした。月光を思わせるイントロから「はりつめた弓のふるえる弦よ」という出だしの歌詞にふさわしい米良の繊細な声が夜空に響き渡る様は幽玄の美に満ちています。人間と自然が共に生きる道を探す理想主義者アシタカを「黙れ小僧! お前にサンが救えるか?」と一喝するモロの君の激しい怒りを引き立てるように2番はスキャットによって表現されていますが、米良の卓越した表現力によって古代より綿々と続いて来た太古の森の静かなる営みと、それを破壊し尽くそうとする人間のエゴイズムにたとえ敵わぬ相手だと知りつつも敢えて森の仲間と一緒に立ち向かわんとするサンの悲壮なる覚悟が表現されており、むしろ1番以上に雄弁に響きます。男性でありながら女性のようなアルトの声を響かせるカウンターテナーという存在は人間でありながら野生に生きるサンや自然と共に歩むアシタカのマージナルな生き方を象徴するものでもあり、その点でも作品と完璧な調和を見せています。

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